2010年8月5日木曜日

小林傳司(こばやし ただし)先生のインタビュー その2

2.科学論

―現在、先生はどのような研究をなさっているのですか?

科学とは何か? 技術とは何か? それらは社会にとって何の意味があるのか? ということを考えること。

―研究はどのような方法で行っているのですか?

本を読んで考えて、本を読んで考えて、本を読んで考えて、論文を書く、または本を書く、という哲学の研究の基本形で研究をしています。

―先生がやられている科学哲学というのはどのような学問なのですか?

科学哲学というのは、もう少し科学に対して近づいている学問です。
科学の行っている証明はどのようなものなのかとか、科学的真理とは、何がわかった時にそれを科学的真理と呼ぶのかとか、科学的方法というものはあるのだろうかとか、もっと根本的に言うと、科学とは一体何なのだろうか、といったことを考える。
例えば、数学は科学なのだろうか?

―科学だとおもいます。確実性が高いという意味で。

どうして?
確かに、科学には数学が使われてはいます。
では、数学はどういった意味で科学といえる?
数学では、実験的なデータは取れないでしょう?自然を相手にしてないでしょう?
では逆に、科学とは何だと君は解釈していますか?具体的には、どういう考え方をした時が科学的だといえる?

―最も正しいと思われる考え方をした時ですかね?

正しいと思われることは世の中にたくさんある。
さっき数学は確実だと言ったけど科学って確実か?
よく科学的事実が訂正されることもあるでしょう?
科学には分からないことが山ほどあるでしょう?
だから、研究しているわけでしょう?

―では先生は科学とは、いったい何だと思いますか?

僕は、科学というものは定義できないとおもっている。
まあ、強いて包括的に言うならば、「現象を物質の振る舞いとしてのみ記述したがる営み」かな。
科学は、精神とか、魂とかを信じて物事を説明したがらないですよね。
高校までの教育では科学が本当はどのようなものか考えさせないようにできている。
たとえば、理科の試験は100点が取れるようにつくってある。
そういうようにして、科学を数学と同じようなものとして扱っているわけです。
国語や社会では見る視点によって意見が食い違うことはあるけれども、理科の場合は「これが私の意見です」ということを言ったならば、「それは間違ってる」で終わりです。そこで、理科の問題について議論しましょうということにはならない。
科学というものは、科学者がダイナミックにいろいろと研究していって、かつての意見に修正に修正を重ねていくプロセスだということを忘れさせるような教え方がなされているわけです。
水槽に土と水とを入れて混ぜると、濁りますよね。だけど、徐々に下の方は土が溜まってきて、しまいには岩盤のようになってくる。
それで、この岩盤のようになった知識は滅多なことでは訂正されないとして、この部分だけを学校で教えているんですよ。このような教え方をしていると、教えられた側は科学というものが常に、正解を出してくれる体系だと思い込んでしまうわけです。
し かし、実際に研究している人たちは、そのように岩盤のようなところは分かりきっているから研究していない。最先端の研究というものは水槽でいう、濁ったよ うなところで行われている。そうするとそこでは、いろいろな研究者がいろいろな見解を出し合って実験をし、そしてその解釈を巡って論争をし、それから徐々 にそれが安定してくると岩盤のようになってくる。
だから、岩盤に持ち込めるような研究をした先生は、偉い先生、立派な研究者ということになる。
多くの研究者は濁り水のところで、岩盤候補もいるのだけれども、違うと言われてひっくり返ったりということを繰り返すわけですよ。
そして、それが研究であり、それによって科学は進歩する。
そういったダイナミックなプロセスを無視した教えられ方をすると、科学が万能だとか、岩盤だけが科学だと思い込んでしまうわけです。
そうではなくて、ダイナミックなプロセス全体が科学であるというような感覚をもっていただけるといいと思います。
そういった点でいくと、数学というものは少し違うなあ、ということになってきますよね。

―下から積み上げていくところが、ということですか?

そういったことも言えると思いますけど、まあ、自然を観察したり、実験をしたりすることによって前進はしないですよね。
今はコンピューターを使うことはあっても、数学は主に紙と鉛筆と頭の中の世界でしょう?
未解決問題とかね。難しい問題を解いた数学者が、凄いといわれますよね。だけど、そういった人たちは何も壮大な実験をしたというわけではありませんよね。こういったことから、数学は科学とは全然違うものだと思えるわけです。
文字の代わりに数式を使っている、という意味でとらえると、数学はどちらかといえば哲学や論理学に近いという言い方もできるでしょう。

―科学にはよく数学の手法が使われているわけですよね?

まあ、たしかに科学は、数学にとって最大のクライアントと言えるでしょうね。
昔ガリレオ・ガリレイがそのように言ったぐらいですからね。

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