2010年8月17日火曜日

永田靖 (ながた やすし) 先生へのインタビュー -1-


みなさんは、大阪大学文学部に“演劇学”という専攻があるのを知っていますか?

演劇を研究するって楽しそう、けれどどんな研究をしているのだろう。

今回は日本では珍しい、“演劇学”を研究なさっている、大阪大学文学部教授 永田靖先生にインタビューしてきました。





-本日はよろしくお願いします。さっそくですが、まず、演劇学とはどのようなものか、教えていただけますか?


一言で言えば、演劇を芸術として研究する学問ですね。文学とか音楽とか絵画とか、様々な「芸術」がありますね、演劇学もそういった芸術としての演劇を研究する学問の中のひとつです。いろんな演劇があり、ミュージカル、ドラマや映画も演劇のひとつです。歌舞伎、浄瑠璃、能なども演劇のジャンルに入りますね。演劇の始まりは紀元前5世紀と考えられていますから、およそ2500年間も続く、世界中の、さまざまなジャンルの演劇を研究する学問です。



-「演劇学」は日本ではめずらしい学問だと思うのですが、先生が演劇学をはじめられたきっかけはなんですか?


僕は、学生時代に演劇を始めて、それで演劇が非常に好きになったんです。だから演出家になりたかったんですけど、演出家や役者として

の才能がなくて。そのまま自然とこうなった感じですかね。だからいつも、えらそうなことは言えないなって思ってます。



-では、演劇を実際に「やる」のではなく「研究」することの魅力は何ですか?


演劇の研究にはいろいろあるんです。いろいろな切り口やいろいろな水準がね。ひとつはいわゆる「ドラマ」の研究。つまり物語の研究がまずありますね。それから、「パフォーマンス」の研究。演劇は、劇場に行って観客席に座って劇を見る。そういう特定の場所で上演されるものを見る体験ですね。そこでしか見ることのできない体験を研究します。

ドラマの研究の場合は台本を持って帰ることができるよね。実際に行って、見て、面白いと思ったら、後で台本を手に入れて、もう一回読み直すんです。それで自分の頭の中にドラマを再構築して、それがどんなドラマかってことを研究する。それから、目の前で生身の人間が喧嘩をしたり、恋をしたりする「振り」をするパフォーマンスを研究するという、この2つの研究があるんですね。いずれにせよ、演劇を研究する魅力は、やっぱり、どちらのアプローチでも最終的には生身の人間の演技に結びつけていく喜びですかね。やるほうはそれはもちろん面白いんです。やるとねー、上演が終わった後しばらくはリハビリがきかないっていうか、その感覚は好きですね。

演劇やったことはありますか。なんというか、違う時間を経験する喜びというのが確かにあるんです。何人もの、場合によっては5人とか10人とかが1ヶ月以上同じ場所に集まってずーっと同じ場面ばっかり繰り返す。演出がいて、場合によってはだめだしする。数分の場面に何度も練習する。そういうことは日常では体験できないことで、長い時間かけで練習して、本番は一瞬で終わる。だからその後、熱が冷めるのに1週間とか1ヶ月とかかかる。そういった長い時間をかけて作って行って、また終わっていくのが演劇で、そのプロセスの研究もあります。その長いリハーサル期間に、作品がどう変化していくか。変化させるのは演出家なのか、舞台装置家なのか、俳優なのか。そこにはどんな意味があったのかとか。彼らが劇をつくっていたリハーサルの1ヶ月の間に何が起きたかを調べるんです。ここにも2つ方向があって、観客席から考える方法と舞台裏の作り手の方から考えるやり方と、どちらも研究として成立するんですね。これも演劇を研究することの魅力ですね。



-そのリハーサルの記録は残っているんですか?


だいたい演出家は演出ノートを作っているんです。演出家は大変な仕事で、俳優やスタッフ全員を納得させなければならないので、相応の準備が必要なんです。ちゃんと俳優たちが納得しないと、生身の演技にならない。だから、せりふの全てに、演出家はちゃんと説明をつけていくんです。おもいつきじゃだめなので。ノートにしたり絵コンテとかあの手この手をつかいながら俳優たちに自分の意見を伝える。だから決まったものではないんだけど、ノートとか、何かしら記録は残ってるんです。



-2- へ続く ...




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