2010年8月5日木曜日

乾賢(いぬいただし)先生へのインタビュー①

味覚のはなし

誰もが身近な「食べる」こと。


そんな「食べる」に関わる味覚について、普段「なんで?」と思うことを解決すべく、大阪大学人間科学部行動生理学研究科()()先生にインタビューして来ました!!                                                

                                         ▲乾先生                                         
●きっかけ


―まず、先生が現在の研究分野である味覚に興味を持たれたきっかけを教えてください。


僕はこの大阪大学の人間科学部に入学してずっといるんだけど、皆さんも思っているように、この学部(人間科学部)は何をやっているのかよく分からないっていう(笑)。でも、何かできそうかなと思って入ってきて、まぁ、実験をやるところがあるとはもちろん知っていたけど、大学に入ってから決めたらいいかと思っていて。

なんか、法とか経済とかはあんま僕にはピンとこなくて、それよりも、もうちょっと違う…役には立たないだろうけど、なんか研究できたらいいなと思っていました。


人間科学部で脳の研究をしているところがあるとは知らなかったんだけども、たまたま豊中の図書館で、この研究室の前任の教授が書いた本をみつけたのがきっかけかもしれない。その本の内容はとても難しくて意味もさっぱり分からなかったけど、「21世紀は脳の世紀だ!」というようなことが書いてあって、すげぇな!と思って、まずは脳に興味を持って。

それから、図書館で脳について調べたりして、面白そうだなと思って、かなり初期の段階でこの研究室に来ることを決めていました。


で、ここに配属されて初めて味覚のことを知って。

だから、味覚のことに最初はまったく興味はなくて(笑)。

興味がなかったというか、まったく知らなかった。まあ、脳のことが研究できればいいかなと思ってきたわけで。


でもやってるうちに、意外にも味覚については分かっていないことが多くて、十分魅力的な分野だなと思うようになって。

そのうち、4回生になって就職するかどうかを考えた時に、4年間だけでは十分にできなかった、もっとやってみたいというのがあったんで、とりあえず進学して研究したいと親に言って、なんとか進学させてもらいました。


2年間修士課程にいって、最初は博士課程に行くつもりはなかった、というか行ったら僕の人生、先はないやろうなという気がしたから。その頃は、文系の院卒では就職なんてないし、自立もしなあかんやろうなと思って。

だから、とりあえず就活をしたけど、まぁやる気なかったっていうのもあって、やっぱりダメで。研究したいと気持ちが強くなっていたから、親に進学させてくれって頭を下げたら、「しゃーないな」ってなって(笑)。

だから、本当はそのまま博士課程に進学する予定だったんだけど、たまたまここの助手のポストが空いて、なぜだかなる人がいなくて、教授が僕になれへんか?って言ってくれて…結局博士には行かずにそのまま就職して。ほんとラッキーだったんだけど。

だから、きっかけも何も、そっからずっと味覚を調べてて…それが味覚の研究をしている経緯です。

 ▼インタビュアー畑

―最初は「脳」だったんですね?

うん…味覚ってあんまり意識したことがなかったし、どっちかと言うと記憶だとか学習だとかに、興味を持っていたというのはあった。最初の頃に読んだ本もそういう本だったから。

この研究室に来てから、味覚って面白いなと思って…入り口はそこにあるかな。
 
―個人的には食べ物にすごい興味をもっておられたのかなと思っていたんですけど?

それは、まぁ結局味覚の研究をやりはじめてから、すごく興味を持つようになっていったというのはあります。

味をどう感じるのかとか、何で食べたいと思ったり、逆に何で嫌いになったりするのかとか…。



僕はやっぱり食べたり飲んだりっていう行動が起こるその仕組みにすごい興味があったので、それでしつこくここに残り続けたっていうのはある。


だから、別に最初からグルメでも何でもなくて(笑)。

今はやっぱりそういうことを四六時中考えたりするけど。



●味覚のはなし

―味覚に関するナゾってなんですか?

味覚はだいぶ昔から研究されていて、分かっていることもたくさんあるんだけど、実は「どうやって味を感じるのか」とか、「脳の中で味の情報がどう処理されているのか」ということについいて分かっていいこともたくさんあります。。


視覚は物理情報だから、脳の中で再現されるんだけど、味覚は化学物質だから、そういうのはなくて…でも、じゃあどうなのかは分かっていなくて。


さらに、味覚情報は大脳皮質に入るまでにいろんな中継が非常に多くて、きっとそれには何か理由があるのだろうけど、その答えはまだ出てないし、未だナゾです。


ほかにも、そういった味を感じる仕組みだけじゃなくて、味の記憶とか、いろんな機能があるけど、まだまだ分からないところがある。


というか、専門でやっていると分からないことだらけで、だから興味は尽きないっていうのはあって、次から次に調べたいことが出てくるのは魅力です。


―では、先生が研究なさっている味覚嫌悪学習について詳しく教えてください。

あんまり楽しい現象ではないけれども(笑)。

食あたりを起こすとか、そういう経験をすると、その食べ物はもう食べたくなくなる。つまり、その食べ物の味を覚えて、それを嫌いになるという学習の現象のことです。

まぁ、普通の人に話しても「あぁ、そうですか」っていう話なんだけど(笑)。


学術的に研究として評価されたのは55年前の1955年が始めてで、そのときは動物を使って、物を食べた後にX線を照射すると、体調不良になってその食べ物を食べなくなるという実験だったんだけど。

じゃあ、なんでその実験をするかというと、がんの治療で使われる放射線治療は、体にすごいダメージを与えるので、だんだん食欲がなくなっていくという問題があって、それを解決しなきゃいけないっていう臨床的な目的があって。


もうひとつは、基礎研究として、味を覚えるという記憶のひとつのいいモデルとして使われる。

味覚嫌悪学習は実験のすごくいいモデルで、ちょっと動物に負荷をかけなきゃいけないけど、何回も何回もトレーニングしてやらなきゃいけない他の記憶や学習の実験とは違って、1回の経験だけで、かつ、かなりの高い確率で成功するから、非常にやりやすい。

そういう意味で、味の記憶や学習という脳のメカニズムを調べるには、もっとも良いモデルのひとつだろうと思って、僕はずっとそれを使って実験しています。


―どうして味覚嫌悪学習は1回で、しかも高い確率で起こるんですか?

答えが分かっているわけではないんだけれども、動物にとって一番大切なことは生命を維持することで、そしたら危ないものを食べちゃいけなくて、そうすると1回経験したものは1回で覚えないといけなくて…じゃないと、何回も体調不良になってたら死んじゃうし。


だから、きっと学習しやすいメカニズムになっているだろうし、しかもそれはいろんな動物に共通してみられるメカニズムだから、動物でやったことはある程度ヒトにもあてはまるだろうし。


まぁ、生命の機能としての基盤の一つとして、かなり重要なんじゃないかなとは思っています。

②へ続く…




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