2010年8月17日火曜日

永田靖 (ながた やすし) 先生へのインタビュー -2-


-先生の演劇学のHPを見させていただいて、「再現できないものの研究」という言葉が印象に残りました。その、再現できないものの研究の苦労はありますか?


ある部分は歴史の研究と一緒なんです。君たちも高校時代に、日本史とか世界史とか勉強したと思いますが、どの時代でもその政治の形態とか経済のあり方とかなんとなくわかるでしょ。彼らがどうやって生活してたのとか、なんとなく理解できていますね。それはその時代の資料とか読んで、再構築していくわけだよね、基本的にはそれと一緒で。終わってしまった上演の記録や当時の批評を読んで、大体どんなものだったかを再構築するんです。研究を進めていくと、ある部分では実際に見た人より深くは理解できるようにすらなります。たとえば鎌倉時代の庶民が鎌倉時代の幕府の政治について理解していた以上に、もしかしたら君たちのほうが知ってるかもしれないですね。そういうことがある。だから終わってしまった作品でも十分研究の対象になるわけです。もちろん100パーセントは再現できないの。だからもどかしいですけど。けどそこがいいんです。決して元通りにならないことが最初からわかっていることが面白いんです。



-またHPの、「アカデミックキャバレー」という言葉が目にとまって。アカデミックキャバレーとはどんな活動ですか?


最近カフェって流行ってるでしょ。だからこちらは対抗してキャバレーにしようってことになって。カフェっていうノリじゃなくて、もうちょ

っと僕らは芸術的にやろうって言って。キャバレーといっても風俗営業ではなく、キャバレットっていうヨーロッパの演劇のジャンルの名前なんです。ヨーロッパで19世紀末から20世紀の間にいろんな演劇のジャンルがはやるんですけど、そのうちのひとつにキャバレー演劇っていうのがあって。お客さんがお茶飲んだりしながら、小劇とか歌とかダンスとか漫才とかの演目で。授業で劇をひとつ翻訳したんですが、次には実際にそれを上演してみようってことになって、教室内で上演したのです。



-演劇学の生徒さんって、やっぱり自分で演劇をされる方が多いんですか?


劇団に入っている学生は少なくないんじゃないでしょうか。阪大の劇団とか地元のサークルとかあちこち適当に。でも多くは純粋に観客として、演劇研究しています。



-学生劇団や地元の劇団という話が出てきましたが、実際、小劇団の役者さんで、それだけで食べていける人はとても少ないという話をよ

く聞きます。そのことについて、先生はどのようにお考えですか?


学生劇団ってね、まあ僕もそうでしたけど、自分で好きにやってるのね。だからおもしろいという面はあるんですけど、4年間だけで満足できない人は、仕事しながら、時間を作ってやったりしてる人もありますね。それで食べていけるかっていわれると、やっぱりそれだけでは厳しいですね。ですから多くは仕事をしながらいわゆるアマチュア演劇として続ける人たちは少なくないですね。

維新派って知っていますか。去年は阪大の博物館で展覧会したんだけど。維新派っていう世界的に有名な劇団が大阪にあるんです。前衛的なね。彼らは自分たちで野外に劇場を作るの。たとえば大阪だったら、南港の広場とかに住み込みで2.3ヶ月寝泊りしながら劇場を作って上演するんです。それが終わるとまた仕事やバイト。

日本は演劇を保護する制度が弱いんです。ヨーロッパに比べて演劇を保護する度合いが高くないんです。

日本は明治になって演劇を国家的には取り入れなかったんだよね、日本には歌舞伎があったから、歌舞伎を改良しようとしたのですが、西欧型の演劇は制度的に確立しようとしなかったんです。もっとも歌舞伎も国家が支援したのではなく、松竹という一興行会社が運営していくことになったわけですが。だから小中や高校で授業に美術と音楽はあるのに演劇はないでしょ。



-最後に、演劇学という専門科目を持つ国立大学が考えていくべきことはなんだとお考えですか?


演劇研究の最先端に追いついて行って、日本発信の演劇研究を示していることだと思いますね。最先端の演劇研究と言っても様々ですが、日本の伝統演劇に対する関心は世界の演劇研究においては高いものがあります。日本の伝統演劇研究はいかんせん世界の演劇研究にはあまり関心を示していないのが現状です。私は伝統演劇の研究者ではないですが、そんな世界と日本の落差の大きさについては常々残念に思っています。国立大学と私立大学との区別はあまり感じませんが、演劇学専修がある大学はそう多い訳ではないし、日本と世界の演劇研究の接点になればいいですね。

最初には、演劇学とは何かって聞かれて、芸術として研究することだ言いましたが、それ以外に広がりのある部分を研究するのも現代の課題です。社会学の役割理論は有名ですが、演劇は見る人と演じる人の役割についての了解があって成立します。日常生活でも、政治活動でも、スポーツでも、演劇的な要素は多分に含んでいます。演劇ではなくても演劇的な行為は日常生活にたくさん散らばっていて、そういう演劇的な、つまり芸術ではない行為も射程に入れて演劇というものを再定義するということも焦眉の課題になっています。そんな最新の課題についても研究できて、世界の関心を集めるようになったらいいですね。



ありがとうございました。





今回インタビューさせていただいて、“演劇”というものがとても幅広く、また身近であることがわかりました。

普段何気なく見ているテレビドラマも演劇のひとつであるということには驚きました。

舞台が出来上がる過程の研究や、演出の意図など、文学研究等には無い面白さが演劇の研究にはあるんですね。


インタビューが初めてでとても緊張しましたが、演劇について熱く語ってくださった先生の姿が印象的でした。

今回はお忙しい中、インタビューにご協力いただき、本当にありがとうございました。


 

 大阪大学経済学部 1回生  中村 充宏


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